• Master Fishcamp

Episode 1 春のアメマス、ライズを釣る。【後編】



カワゲラかユスリカか?


 「さて、何を投げようか…?」

ニンフかドライフライか、カワゲラかそ

れともユスリカか。

 前編に登場した、胃から出てきたカワゲラのニンフパターンはおそらくどの個体も反応してしまうことに間違いはない。サイトニンフィング、つまり魚の姿を見ながら、そこに狙いすましてニンフを送り込み、食べる瞬間を確認してのヒットならそれなりに面白い釣りになるだろう。ニンフなら間違いはない。

 さらにやや不可解な現象も目撃するに至って、選択の幅はさらに狭まった。水面上をうねうねと蠢めいている細長いニンフを目撃してしまったのである。最初は、風に吹かれたアダルトがもがいているのか?と思ってみたが、それにしてはずいぶんとシルエットがはっきりとしている。あれはどう見ても幼虫だ。カワゲラの幼虫が泳ぐらしい、ということは後日調べてみて知った。以前のFlyFisher誌で長く連載を書いていらした刈田敏三さんは、書籍「水生昆虫ファイル」の中で、クロカワゲラの幼虫は羽化に関係なく水面下を泳ぐことを記している。これらを模倣したニンフなら、ヒットはたやすいだろう。現に前回もこれで何尾かをヒットさせてもいたのだから。



 だが雪の上を這いずり回るのは無数のクロカワゲラのアダルト。これらはとにかく目立つのである。白い雪の上に、頭から尻尾の先まで黒く細長い虫が無数に歩き回る群れは、思わずアダルトを模したドライフライをボックスから取り出して、細いナイロンに結びたくなるほどの多さ。きっと簡単だ、静かな水面にそっと落として流れに載せたら、ゆっくりと


浮上しては吸い込むように捕食するアメマスの姿が目に浮かぶ。ニンフのサイトニンフィングも面白い、だがさらにドライフライでのライズ攻略の方が、さらにエキサイティングである。より面白い釣りの方へ…、そんな信条をくすぐるのだ。

 だが、ライズが起きている水面を注意深く眺めてみると、水面でマスたちが食べているのは、カワゲラのアダルトだけではないという、思いがけない事実が見えてきた。むしろ、よく見てみるとカワゲラの数は非常に少なく、その代わりに目につくのはさらに小さな羽虫、ユスリカだ。二枚羽、羽は淡い色に見える。小さく黒いボディ、それはユスリカのアダルト。比率にすると1対10ほどの差がありそうだ。ユスリカのアダルトは羽化に失敗して水面をもがきながら流れており、崩れた2枚羽が水面を震わせてマスたちのスイッチ=捕食行動を誘導しているかのようでもある。

 よし、それではユスリカで決まりだな…と簡単にならないのが、天邪鬼な、いや、面白い方の釣りを目指すFishcamp流なのである。まずはより大きめのフライ、見切られたらサイズを落とす。自然への理解は、自分で体験することが多いほど、心の奥深くへと残るものだ。



 第一候補のポイントは、翌々週には魚の数がかなり減ってしまっていた。釣り人が出入りしやすい個所で、魚が嫌がって逃げ回っているうちに、下流などに群れごと移動してしまったのだろう。越冬開けのアメマスの群れの行動ではよくあることだ。下流のやや歩く別のポイントへ向かう。先週見たときは数こそ少ないものの、やや大型が揃っていたからだ。

このプールで魚がライズする個所は、沈んだ倒木から突きだした数本の枝のあいだ、というかなり難易度の高いポイントである。しかも今日は風があって、そこへ落とすためには何度も修正しながらキャストをしなければならない。


 まずはパラシュートパターン。

グレーのウィングポスト、黒いファーのボディにハックル、16番フックに巻いたクロカワゲラパターンを結ぶ。グレーのウィングなのは本物の光が透過すると白っぽく見えるのと、私自身がよく見えるため。最近は少々視力が落ちてきたので。


ハックルはあまり密に巻かないので、フラットな水面では黒いボディとハックルがバランスよく水面に張り付きアピール度も高い。フライの大きさを考えると4番ロッドでもいい。だが、たとえば根に入った60㎝級を引っ張り出すにはやや心もとない。なのでサオは5番8ft半。リーダーは長め、ティペットと合わせると18ftほどになる。


 

 深瀬のほぼ真横に陣取り、腰をかがめて魚の視界に自分が入らないようにする。ポジションに入っても魚はライズ間隔を変えなかった。大丈夫、気づかれていない。はやる気持ちを抑えて、、、距離は7mくらい、やや上流側にスラックをかけてサイドキャスト。おっと、一発目から半沈みの枝に直撃。慌てて引っ張ったせいで、フッキングしてしまう。なんてこった。一発目からとは!

 フライはまた夜に車の中で巻けばいいだけのことなのだが、あまり今日の分のスペアはない。だがいきなりフライ回収のためにポイントに入り込んで荒らすわけにもいかず、ラインを引いてティペットを切る。フライはあとで回収しよう。狭い車の中では4本も巻けば足が痺れてきて多くを巻けないのだ。

 少々前置きが長くなってしまったが、次のフライでは2投目に流したフライがタイミングよくライズに浮上したアメマスの口の中に吸い込まれた。上出来。コツのようなものはないがあえて言うなら、キャストの距離は長くはなくても、やや低い位置からのキャストなので、手を大きく振ってスラックを多めに作ることくらい。フラットな流れなので、魚は簡単にスレてしまい、下手な動きをするフライは食べなくなってしまう。



 一尾目はさっそくストマックポンプを使って、食べているものを確認する。これも予想外な結果。活発に泳ぎ回っているらしいニンフが入っているのは当然としても、成虫はカワゲラのアダルトのみ。ユスリカは入っていなかった。たまたまこの個体はえり好みしていた可能性もあるので何とも結論的なことはわからなくなった。


 この後も何度かフライを変えて試してみたが、サイズがそこそこ合っていれば、パターンには関係なく反応はある。白いダウンウィングのカディスパターンでもヒット、しかも魚のサイズは60㎝近い立派なアメマス。フライに関しては格段にセレクティブというわけではなく、流れて来るものはとりあえず食べている、と考えてよさそうだった。だが、いったん、流下がなくなるとどんなドライフライを投げても反応はなくなる。これは夏場のライズの釣りとはちょっと傾向が違う。

 また、この年、三週続けて訪れてみて分かったのは、カワゲラの流下がないときは、ユスリカがどれほど大量に流れていても、ライズは散発的で、しかも小型の魚しか反応しないようだった。70㎝級の大型魚も群れの中に入るのだが、複雑に絡まった珍倒木の中に鎮座して、水面には出てこようとしなかった。


 それにしても、こんな大型のマスたちでマッチング・ザ・ハッチの釣りが出来るとは、驚きだった。魚種を無視するなら、アメリカのスプリングクリークの釣りにも匹敵するのではないか。

 こんなニッチな釣りをしている人は、この川に関して(全道的にといって良いはずだが)他にはほとんどいないのも残念だ。エッグやニンフを流せば簡単に釣れる状態でもあるが、釣果ばかりを求めるのはフライフィッシングの醍醐味ではないだろう。

 海から上がってくるアメマスでライズの釣りになることなど、なかなか理解しがたこともであるが、だがまったくもって無垢なマス、ドライフライなど見たことはないマスたちの饗宴の宴は、その光景だけでも価値がある。ドライフライ好きのフライフィッシャーにとって、これはある種の楽園状態。もっとも、難しいほど腕が鳴るタイプのエンスージストにとっては、少々物足りないかもしれないが、前後左右に張り出した枝の中のスポットにフライを落とす技術は高度なものが要求される。




ハッチはほぼお昼前から午後遅くまで。

朝はコーヒーでも沸かしながら、

のんびりとハッチとライズが始まるのを待つ。3月のみ、雪解けが始まるまでの、まさに自然が生み出す夢のひと時。










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